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2015.11.04

Aunt

 敬愛する叔母がいた。
 彼女は私にブランデーの飲み方と、雨が降る夜の過ごし方を教えてくれた。

 それを私が実践できる年齢に達するより早く、彼女は私の前から姿を消した。一冊の手記だけを残して。
 いまから10年ほど前のことだった。


 それから彼女がどこで、一体何をしているのか。知る機会はなかった。親戚に聞いてみても、誰も明確な答えは教えてくれなかった。彼ら自身も、その答えを知らなかったのだろうと思う。そのこと自体が、口ごもる理由のひとつだったのかもしれない。

 彼女がどこで何をしているか。いや、――正確には、「何をしていたか」。
 それを知ったのは、彼女の訃報と同時のことだった。

 結論からいうと、彼女は故郷の町から遠く離れた北の場所で、小さなバーを経営していた。彼女の名誉のために記しておくと、それは確かに「バー」なのであって、だからカクテルの技術で勝負をする店だった。そして彼女はその勝負に、勝っていた。とても評判の良いバーのようだった。食べログに残された、客からの口コミが叔母の人柄と技術とを物語っていた。

 今夜はとても晴れた、天の果てまで見渡せるような澄んだ星空が広がっている。
 よく彼女がそうしていたように、ショートホープを咥えて、火をつけた。
 もしも叶うなら、彼女の経営していたバーに一度、行ってみたかったと思う。そしてあのバーに特有の、気だるい午前2時の空気の中。すっかり客も帰ってしまって静けさに落ちるカウンター席で、彼女と話をしたかったものだと思う。――その願いは、もちろん、もう叶わない。

 ショートホープの煙を吐きながら、この煙草を吸うようになったのもまた、彼女の影響だったことを思い出した。私の生活の少なくない部分が、彼女の模倣であることに今更ながら気付く。彼女がこんな風に、涙を流しながら煙草を吸うことは無かったろうと思うけれど。
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