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2015.10.09

Before holiday

「ごめんなさいじゃないでしょっ!」

 3連休前の金曜日。午後。静かなオフィスに、怒りを帯びた声が響いた。
 声の主は、隣の課のベテラン社員だった。
 彼女が、隣に座る――彼女自身より20は若い――女性社員に言い放った言葉だった。

 そのベテランの彼女は、論理的なのか感情的なのか判断のつかない叱責を続けている。
 どうやら仕事のやり方について文句があったらしい。向こうから水瀬さんが、「なにか面白いことやってるね」と言いたげな笑みを浮かべながら私を見ていた。私は苦笑する。
 今、叱責しているベテランの彼女は、いつだったか水瀬さんにも同じように食ってかかったことがあった。それは、しかし相手が悪いというものだった。彼女のその試みは、水瀬さんの一分の隙もなく構成された完璧な反論と、「もしかして、バカですかー?」という煽りによって、ものの見事に失敗した。

 だが誰しもが、水瀬さんのように出来る訳ではなかった。
 叱られていた女性社員は、やがて、顔を天井へ向けた。瞳に溢れた涙をせめてこぼさないようにするための、それは彼女の最後の、多分プライドだった。

 ささやかなそれが決壊してしまうまで、時間はかからなかった。
「私が話してるんだから、こっち見なさいよ。ほら」
 そう言われて、若い女性社員はハンカチで顔を覆い、小さな嗚咽を漏らし始めた。それでも、ベテラン社員はなおも続ける。
「泣けばこの問題解決するの? 違うよね?」
 優しさを装ったその口調は、追い詰めるための口調。女性社員の声にならない嗚咽が、くぐもって聞こえている。もう、沢山だった。

 私はどちらの立場が正しいのかは分からない。ただひとつ確かなのは、相手が泣き出すような叱り方というのは、仕事において3流以下の人間がするものだ、ということだった。ついでに言うなら、そこに居るよりもそこに居ない方が、周りにとって望ましい人間というのも組織には存在する。

 声をかけた。
「その辺にしておいたらいかがですか?」
 彼女の矛先が、一瞬でこちらを向いた。
「なに? 今、話してる最中なんだけど。見たら分かるでしょ? ね、神代さん?」

 その後のやり取りは、想像に任せることにする。書いていて、あまり気分の良いものではない。
 ただひとつ。叱られていた彼女が帰りに私に声をかけてきた。ありがとうございました、と。
 私は答えた。気分良く3連休を迎えたかっただけだから気にしないで、と。
 その時に、彼女は小さく笑みを見せてくれた。そのことだけを記しておけば十分だ。
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