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2015.09.01

Shooting

 散々な1日だった。
 きっかけは一ヶ月ほど前。他課から来た依頼だった。

 「就活生を対象とした当社プロモーション映像作成のための出演依頼」。
 そういう、依頼文書。部長発私宛てのその依頼文を手に、課長は言ったのだった。「1時間くらいの撮影らしいから、出演してくれないかなぁ」と。

 騙された。
 まさか、たかが撮影で1日が潰れるとは思ってもいなかった。
 ――いや、本当は気付くべきだったのだ。昨日の事前説明会において、「玄関エントランスにマイクロバスが乗り付けるので、集合は9時です」と言われた時点でおかしいと気付くべきだった。それに、今回の撮影にかかる見積書に決裁の判子を押したとき。その金額にゼロが6個、並んでいた時点でうっすら違和感を覚えておくべきだった。
 もしかしたら無意識に、そのことを考えないようにしていたのかもしれない。つまり、こんなにも本格的で大掛かりな撮影がなされる、というその事実を。

 朝9時。隣県へ向かうマイクロバスがエントランスに乗り付けた。
 その一席に乗り込む直前まで、私は抵抗した。
 「今日は天気も悪いし、防災の日ですから。大人しく過ごすべきです」という私の主張は、担当課長に聞き入れてもらえなかった。
 やけにニコニコと笑う熊本支社の人々に見送られながら、バスは隣県へ向けて走り出した。


 それから行われた撮影。結局、1日中拘束されることになった。

 プロに混じって慣れない演技を行いながら、私は幾つかの問いを頭の中で組み立てた。
 「撮影はせいぜい1時間ですよ」と言っていたのはどこの誰だったか。会社のプロモーション映像といいながら、会社をロケ地にしないのはどういうわけか。社内の広報係までついてきて、彼らは他にまともな仕事はないのか。
 こういう問いに答えてくれる人がいないのが、しかし仕事というものだった。

 やがて私は、考えるのをやめた。人というのは、無心になればなるほど、演技に感情を込められるのだと知った。メイクや衣装が職業として成り立つこともまた、一つの発見だった。撮影終わり。鏡を通して見た自分の姿に、少しだけ驚いた。

「さっすが。いつも通りクールビューティーだったよ!」
 帰りのバス。半ば座席に倒れ込んだ私に、担当課長は言った。いつでも適当なことを言う男だった。私は力無い愛想笑いを返しながら、このバスが帰り道で崖から転落してくれることを願った。
 今日のことはもう思い出したくない。この日記ももう、見返すことはないだろう。
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