FC2ブログ
--.--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2015.08.28

Café royal

 何をする気にもならずに、部屋のライトを落とした。
 何かが見えてしまうことさえ億劫だった。キャンドルに火を灯して、コーヒーを淹れた。
 窓から吹き込む風に寒さを覚える。ついこの間までは暑さにうんざりしていた。それでも風が冷たくなってしまうと、そこには一抹の寂しさを覚えてしまう。
 心の奥にある感情は、寂しさだけではなくて、冬を迎える不安や小さな郷愁も混じっていて――、多分それは、憂鬱と表現されるべき心象だった。

 キャンドルに揺れる炎が、壁紙に浮かびあがる黒い陰影をゆらゆらと揺り動かしている。
 ハインのボトル。ボードレールの詩集、『巴里の憂鬱』。それらの影が壁紙を舞台に、まるで夢幻めいた霧のように、大きく踊る。

 コーヒーカップを口に運んだ。火傷をするように熱い。しかしそれは、冬を迎えるには大事なものが欠けているブラックコーヒー。

 スプーンに角砂糖を1個、乗せた。スプーンの上で、ゆっくりとハインのボトルを傾ける。ボトルの口から零れ出した、アルコール度数40度のブランデー。それはじわじわと角砂糖へ染み込んでゆき、やがてスプーンの底を満たした。スプーンをキャンドルの炎へくぐらせる。ポッ、という小さな小さな音が、静かな夜の中で大きく聞こえた。スプーンへ移った青い炎は、琥珀色に溶けた砂糖の上で音もなく燃えている。焦げた砂糖と葡萄の酔える甘美とを、辺りへ立ち昇らせながら。
 静かに燃え続けるその炎を、カップの中のコーヒーへと沈めた。
 カフェ・ロワイアル。この時期になると、決まって作るカクテルだった。

 コーヒーカップを口へ運んだ。
 窓から吹き込む、冷たい風。ふっ、と吐いたブランデー混じりの溜息は、風に溶けていった。
この記事へのトラックバックURL
http://arukusan.blog.fc2.com/tb.php/177-b596e14d
この記事へのトラックバック
この記事へのコメント
管理者にだけ表示を許可する
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。