ひとしずくのあめ

　終業間近になって、同期の男性が1人、私をたずねてきた。彼は休みを利用して、海外へ行ってきたらしい。
　私の会社に、いわゆる盆休みは無い。かわりに1週間の休みが与えられる。それを好きなときに消化することになっている。
「ラッシュを外せるから助かるんだよね。と、これ、お土産な」
　そう言って彼は、小さな椀のようなものを差し出した。
「あら、気を遣わなくていいのに。ありがと」
　礼を言って受け取りながら、観察する。椀の縁は、かなり厚い。表面は繊維質。――それが何なのかも、使い道も分からない。あてずっぽうで言ってみる。
「もしかして、椰子の実？」
「そうそうっ。ちょっとハワイに行ってきてね。それ、灰皿にも使えるんだよ」
　当たった。それでようやく、使い道が分かった。コーヒーの出し殻でも入れておけば、たしかに灰皿として使えそうだった。コナでも買って帰ろう。

　改めて礼を言って、私はデスクからお礼の品を取り出した。
　ハローキティのストラップ。仕事を選り好みしないことで有名なその猫が、白バイに乗っているもの。
「それ、警察の関係者しか買えないから大事にしてね」
「なんで神代さんがそんなの持ってるのかな。ってか、結構カワイイもの好きだよね？」
　そんなこともないけど、と笑っておく。彼は続けた。

「っていうか、やっぱり神代さん、やさしーよな」
「何かあったの？」
「さっき水瀬さんにも同じもの渡したんだけど、何て言われたと思う？」
「その言い方だと、あんまり良い反応はなかったみたいね」
「渡した瞬間に、『わぁすごい！　なにこれ、ゴミ？』って言われたよ」
　反応に困った。一瞬、私も同じ感想を抱いたからだ。そのことは言葉に出さず、彼を慰めておいた。土産を買うときは、私も気を付けよう。