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2015.08.19

Lost child

 いつものショッピングモールで迷子を見つけてしまい、どうしたものかと考えた。まだ幼い、幼稚園児くらいの男の子だった。

 手に握った2本のストリチナヤはとりあえず棚に戻しておいて、泣いているその子の周りを見渡す。保護者らしき人は見当たらなかった。声を掛けてやる大人も居ない様子。
 仕方がない。泣いているその子の前に行った。膝を着いて、同じ目線になって話を聞いた。彼は母親と一緒に買い物に来て、はぐれてしまったようだった。
「ママが、ここで待ってて、って……言って――」
 彼の言葉は、それ以上続かなかった。言葉の代わりに出てきたのは、再び、啼泣の声。子供の扱いは、ちょっと苦手だ。サービスカウンターに連れていって、放送で呼び出してもらおうと判断した。

 手を差し出した私に、彼はおずおずと手を重ねた。そのまま手をつないで、店内中央にあるサービスカウンターへ。係員に簡単に事情を説明して、放送をかけてもらう。
 彼は自分で名前を言うことが出来たので、褒めてあげた。何かあげられるものがあっただろうか、とバッグの中を探った。ミントガムと林檎ジュースがあった。さっきコンビニで購入したもの。林檎ジュースを出して、飲むかどうかを聞いてみる。泣きはらした赤い目で、彼は頷いた。パックをあけて、ストローを挿してやった。

 それから一緒に、母親が来るのを待った。彼は不安げに、ジュースのパックを両手で握っていた。その着ている服には、最近流行っているらしいアニメのキャラが描かれている。可愛らしくも、どこか気の強そうな顔をこちらに向けている。それが、交通事故で死んだ猫の地縛霊なのだと彼から教えてもらった。

 そんな取り留めのない話をしながら、ふと、考える。
 このシャツを彼に買ってあげたとき、両親はどんな気持ちで財布から紙幣を出したのだろう。仕事をして稼いだ金の使い道として、両親はどう評価しているのだろう。そこには良し悪しの評価を超えた、純粋とか無垢とかあるいは無償の愛とか、そう言表されるべき心情が両親にもあったのだろうか。ちょっと奇妙な顔をした、この猫のTシャツを眺めていると、なぜだかそんなことが頭をよぎる。

 なんということもない会話を交わしながら時間を潰しているうち、やがて、母親らしき女性があらわれた。
 その姿を見た瞬間、彼は母親の足元に、抱き着いた。彼が放り出した林檎ジュースのパックを、私は素早くバッグに隠した。私の役目は、ここまでだった。

「どうもすみません、うちの子がご迷惑をおかけして」
 係員に頭を下げた母親は、それから私の方をちらりと見た。それでなんとなく察したらしく、こちらにも軽く頭を下げた。少年が言う。
「このおねーちゃんが連れてきてくれたんだ」
「それは、ご迷惑おかけしまして……。どうも、ありがとうございます」
 母親が再び、今度は深々と頭を下げた。気にしないでください、と告げておいて、私は再び膝をついた。少年の目線に合わせて、彼に声をかける。
「ママが見つかって、良かったですね」
「うんっ」
 元気に答える彼の頭を撫でておいて、私は2人に背を向けた。
 その足で、林檎ジュースとウォッカを買いに向かった。今夜のビッグ・アップルは、すこし甘めに作ろうか。たまにはそんなカクテルがあっても良いだろう。
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