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2015.08.16

Silent night

 アルコールを飲まない休日。時々、そんな日もある。

 時間の過ごし方が分からなくて、つい手持無沙汰になってしまう。21時の夜はとても静かだ。通る車もなければ、風も吹いていない。音のない、雨上がりの夜。こんな静かな夜を素面で過ごす方法を、私は知らなかった。

 何もすることを思いつかないので、部屋の隅から刀袋を持ってきた。ついでに、手入れに必要ないくつかの道具も引っ張り出してくる。手入れを行うべき時期は、とっくに過ぎていた。
 袋を解いて、白鞘を取り出した。柄の目釘を外しておいてから、白鞘におさまった刀身を抜く。部屋のライトを浴びた白刃に、乱刃の刃文が浮かんだ。
 柄を抜いて、ティッシュペーパーを刃に滑らせて古い油を拭き取った。打ち粉は省略して、刀身を光にかざす。滅多に手入れをしない割には、良好の状態を保っている――ように、見えた。私の眼があまりあてにならないことを、私は知っている。
 丁子油を染み込ませたネル布で、ハバキ元から切先まで、薄く油を塗り渡らせた。それだけで、終わり。5分とかからずに終わるその手入れを行ったのは、しかし久々のことだった。アルコールを飲んでいるときには出来ないので、つい先送りしてしまう。
 
 さきほどと逆の手順で、柄を納めて目釘を打った。復習がてら、残心を保ちながら血振り、納刀を行った。いささか動きがおぼつかないように思えた。無理もない。その道を離れてからもう、数年が経過していた。

 白鞘を元通り、刀袋に納めておいてから、私はショート・ホープに火をつけた。
 再び、することが無くなった。この煙草を一本吸ったら、もう寝ることにしよう。そう心に決めて、私は煙草を口に運んだ。静かな静かな雨上がりの夜のなか。煙草葉とフィルターとが燃える音が、夜の沈黙に溶けていった。あとには音の波ひとつ、残らなかった。明鏡止水という言葉は多分、こういう夜を表現するためにある。人の心は、こうはいかない。
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