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2015.07.17

Gimlet

 どうしようもなく暗澹たる気持ちで帰路についた。
 溢れてくるのは自己嫌悪の思いばかり。どうして私はこうなのだろう。

 バーが目についた。
 半年ほど訪れていないそこに、思わず足を踏み入れる。

 お久しぶりです、と言われて、私は小さく頭を下げて端のストゥールに腰を下ろした。
「ギムレット」
 それだけ言って、煙草を咥えて火をつける。
 私は無意識に、人を傷つけてしまう。そのことを知り、相手の思いを知ったとき、それは鉛のように重苦しい自己嫌悪になって返ってきた。まったく、どうしようもない性格だ。

 店内を見回す。私が最後にここを訪れてから、半年ほどが経っていた。
 色々なものが変わっていた。平坦だった壁面にはバック・バーが備え付けられている。ジンもブランデーも、ラムの種類まで増えている様子。メニューを開くとスイーツが増えていた。興味がない。ページをめくる。

「半年ぶり、くらいですか」
 バーテンダーに声をかけられて、私はメニューから目をあげた。
「……そうね」
 変わってしまったこのバーに、私はあまり足が向かなかった。それから、半年。
「神代さんと最後に会ってからなんにも変わってないんですよ。だから特に報告することとか」
 「彼女」は微笑みながら、「ねぇのです」と、砕けて言ってみせた。このバーを任されたばかりの彼女と知り合ったのは、3年前のことになる。

「そう」
 私は答えた。あまり話をしたい気分ではなかった。煙草を灰皿に押し付けて、揉み消した。
「何にも変わらないですね、お互い」
 彼女は一呼吸を置いて、続けた。
「もしも変わっていたら、きっとこうして会えてないですけどね」
「……どうして?」
 私は新たな煙草に火をつけながら、尋ねた。彼女もまた、メビウス――かつてマイルド・セブンと呼ばれていた銘柄の煙草――に火をつけた。
「だってこの年齢で何かが変わるって、神代さんなら仕事が変わるってことですし、私だったらこのバーを閉じてるってことです。お互い、変わっていたらこうして会うことはできないですよね?」

 煙を吐きながら彼女は言う。
「そう……でしょうね」
「そうなったら悩む暇とかねーのですよ。だから多分悩めることって――」
 彼女は一瞬、顔を隠しておいてから、続けた。その隠した瞬間の表情を、私は知らない。
「――悩めるのは、ひとつの幸せの形なんじゃないっすかね」
「……かもね」
 私は頷いた。吸うのを忘れていた煙草が、手元でジジっと音を上げた。彼女が作ってくれたギムレットは、哀しみを知るジンの味がした。

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