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2015.07.16

Difference

 女性は地図が読めないもの、という傾向があるらしい。黒沢君がそんな話を切り出したのは、午後6時前。小さな居酒屋の個室だった。
「ちょっと前にそんな話聞いたわね。……あっ、これ美味しい」
 とは水瀬さん。彼女の前には、升の中に置かれたグラス。升を満たし、グラスにも縁ぎりぎりまで注がれた盛切りの獺祭に、すこぶるご機嫌らしかった。

 地図が読めない女。
 聞けば、黒沢君は最近そういう本を読んだそう。
「結構、納得できるとこも多くて面白かったですよ」
 言いながら、グラス一杯に注がれた八海山に口をつける。
「女は地図が読めない、ね。ゆずき、どう?」
 水瀬さんが私に話を振った。
「こないだ阿蘇大橋に行ったときは、私たちが道を教えてあげた覚えがあるけど」
 私たち3人で、そういう自殺の名所に行ったのは数ヶ月前のことだ。その時に運転していたのは、他でもない黒沢君だった。
「そういえばそうね」
 と水瀬さん。
「だ、だってあれは神代さん、あそこ地元じゃないですか」
「あら、地元じゃないわよ」
 私は訂正して、付け加える。
「私の地元はもっと手前。大津町っていってね、カライモの生産が盛んなの。11月にはカライモフェスティバルも行われてて、毎年カライモのアドバルーンを空高く――」
「別にいいですよ、そこ詳しく言わなくてっ!」
「そう? 残念ね」
「なんですかカライモのアドバルーンって。いや、写真とか見せようとしなくていいですから」
 言われてしまい、私は携帯を閉じた。
「それでも近いんだから、道も知ってそうじゃないですか」
「阿蘇大橋の辺りは、そう詳しくないわね。おあいにくさま」
 神代さんはいいんですけど、と黒沢君は少しだけ声を潜めて続けた。
「水瀬さんに至っては、嘘の道教えてきましたよね……」
 そのとき水瀬さんは店員を呼んで、新たに日本酒をオーダーしているところだった。
「聞いてねーし」
 呆れたように笑う黒沢君に、
「ん? ごめんね、聞いてなかった」
 まったく悪びれることなく、水瀬さんは届いた阿櫻を口に運んだのだった。

 そのあとで聞いたところ、彼が読んだ本の題名は、正式にはこう言うらしい。『話を聞かない男、地図が読めない女』。それが正しい評価なのかどうか、よく分からない夜だった。
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