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2015.06.20

Park

 朝から図書館へ行って数冊の本を借りた。普段ならそのまま図書館の一角で本を読む。けれど今日に限っては、少し違う気分だった。雨が降っていなかったせいかもしれない。梅雨の合間、雨が降らない曇り空は最近にしては珍しい。

 借りた本をバッグに入れて、近所の公園へ向かった。人が少ない、隅の方のベンチに腰を下ろす。大きく開けた公園。東の空には阿蘇の外輪山が見える。いつもそうであるように、山肌の草原に風車がクルクルと回っているのが見えた。
 バッグから本を取り出す。次いで、マックマーのティーフリーボトルをベンチの隣に置く。中身は、家で淹れてきた紅茶だ。たっぷりのレミーマルタンを落としてある。1杯目の紅茶を注いでおいて、私は借りてきた『注文の多い料理店』のページを開いた。
 ページをめくる。よく分かるようで分からない内容だった。分からないのはブランデーのせいかもしれない。

 二時間近く経ったころ。
 ――ガチャン、という音がした。本から目をあげる。ボール、だろうか。白と黒の混じった球形がまず目に入った。私のボトルがベンチから落ちる光景が妙に、ゆっくりとした光景に見えた。手を伸ばそうと思えば出来たのかもしれない。しかし私はぼんやりと、ボールがボトルに叩きつける光景を眺めていた。ベンチにぶつかったボールが高い音を立てて跳ねて、低い音を立てて地面に落ちたとき。それでようやく、私はボトルにボールが激突したのだということに気付いた。

「すみません。あの、この子が蹴ったボールが当たったみたいで。すみません、本当にごめんなさい!」
 子どもとその保護者らしい女性が私に歩み寄ってきた。
 ベンチの下に落ちてしまったボトルをみやる。わずかにヒビが入っていた。もう使い物にはならないだろう。辺りには、無残に散乱した紅茶。ベルガモットとレミーマルタンの香りが、ほんのりと立っている。その女性は頭を下げながら続けた。

「本当にすみません、うちの子が……。弁償いたします」
 頭を下げる保護者の女性に、怒る理由などなかった。動揺している彼女の隣で、ボールを蹴ったらしい小学生の男の子がきまり悪そうに地面を見つめていた。
「いえ、大丈夫ですよ」
 こういう時に怒る人もいるのかもしれないけれど、私は新しい水筒を買う理由ができたと喜んでしまう。今度は同じもののブラウンを買うことにしよう。
「でも、そちら、壊れてしまってると思いますし」
 こちらが申し訳ない気分になるくらい、その女性はかしこまっていた。そうした態度に好感を持った。この町の住人に弁償などさせるわけにはいかなかった。そういう嫌な思い出を、この町に持ってほしくなかった。保護者にも、子どもにも。
「形があるものは、いずれ壊れるものですから」
 それだけ言って、私は本を片付けて公園を後にした。

 サンドイッチが食べたくて仕方がなかった。卵とレタスを挟んだそれを食べたかった。公園を後にして、駅前のパン屋に行くことにした。あのパン屋にサンドイッチは置いてあっただろうか。

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