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2015.06.19

Communicate with

 仕事が終わってから、用度課の係長とバーへ行った。用度課というのは物品を購入する部署だ。
 私よりかなり年上の彼女。しかし、とてもそうは見えない。容姿もセンスも若々しく活気に溢れていて、30代半ばと言っても通じるだろう。とても明るい人だ。赤池さんという。

 小さなバーで、季節のフルーツを使ったカクテルを飲みながら話をした。赤池さんは、娘に彼氏が出来たらしいという話をした。どうも相手はアメリカ人らしい。
「でも国際結婚も、いまは珍しくないようですね」
「うん。それはいいんだけどさー、相手が15歳年上なんだよね。一回り違うの」
「年の差婚も、最近は流行ってると聞きますが」
「最後にね、相手がバツ2なの。どう? どうかな、これ?」
 メヴィウスの煙を吐きながら、彼女は私に問うた。どこか追い詰めるような物の言い方は、普段から業者相手に攻勢的な交渉をしている彼女ならではのもの。
「それは……ちょっと躊躇してしまうかもしれませんね」
「でしょ? だからあたしね、もしその彼氏が家に来たら竹槍持っていこうと思ってんの」
「竹槍ですか」
「そっ。んで『鬼畜米英!』って言いながら竹槍で刺そうかと思って」
 それは太平洋戦争中のスローガンだ。
「関係各所に被害が及ぶのでやめてください」
 諌める私に、赤池さんは愉快そうに笑った。
「……やめてくださいね?」
 もう一度、私は念を押しておいた。

 用度課と経理課は、ちょっと微妙な関係にある。用度課から経理課に請求書が廻り、それを私たちが支払う流れになる。――したがって残念ながら、仕事上の小さな諍いは絶えない。だから時々こうやって、私は赤池さんを誘って飲む。それで少しでも両課の関係が改善すれば、それに越したことはない。無論、単にカクテルが飲みたいという理由もあるのだけれど。

 帰りの電車の中。
 赤池さんが降りる駅に差し掛かるころ。彼女は降車の準備をしながら言った。
「あたしたちの課って、基本仲悪いじゃない?」
「えぇ、まぁ」
「でもそういうなかで、いつも溝を埋めようとしてくれる神代さんに、あたしは感謝してるよ。いつもありがとね」
「……赤池さん」
「うん? なぁに?」
「その定期入れ、とっても素敵ですね」
 あっはは、と白い歯を見せて、赤池さんは言った。
「神代さん。それが照れ隠しだって、あたし知ってるよ?」
「……っ」
「仕事は出来るのに、そういうとこは子どもみたいなんだから」
「……」
「ま、そこがいいんだけど。それじゃバイバーイ!」
 手を振って彼女は電車を降りていった。頭を下げるくらいしかできなかった。それから家に着くまでの間、どういう返事をするのが正解だったのか考えてみたけれど、分からなかった。
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