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2015.06.14

An old pal

 意外な職業に就いた同級生というのがいると思う。薬学部に行ったのにバーテンダーになったり、不良だったのに警察官になったりする、そんな同級生。風宮という人間は私から見て、そういう意外な道を選んだ同級生のひとりだった。

「あなたはまともな仕事なんてしないと思ってたんだけど」
 私の町の小さな割烹店。上等な料理と日本酒が並ぶ卓の向こう側で、
「お前、相変わらず失礼だな」
 風宮は声を殺して笑った。異性に「お前」と呼ばれるのは嫌いだったが、彼なら話は別だ。
「まともじゃない人がまともな仕事なんて出来るとは思えないもの」
「俺はまともだよ。お前、きっと感動するぜ。愛をもって仕事にあたる俺の姿にな」
 恥ずかしいことを臆面もなく言って、彼はグラスの日本酒を飲み干した。

 風宮は私の同級生だ。小学校から中学高校、大学と同じだった。大学を出て、私は就職をした。彼は経済学と文学で大学院に進み、イギリスへ留学した。やがて時が経ち、彼も私と同様にこの熊本の小さな町へ戻ってきた。幼稚園の先生として。
「絵本の読み聞かせが、結構難しいんだ」
 彼がそう言っただけで、私は笑いが止まらなかった。風宮が、子供に絵本の読み聞かせをする画が思い浮かばなかった。中学の授業中にウォッカを飲んで先生を困らせていた、そういう人間が。

「そういえばお前は経理だったな」
 問われて、笑いをおさえながら私は肯定する。
「えぇ。一応そういう仕事になるわね」
「職場が火事になったらどうする?」
「どういう意味?」
「いや、危機管理でな。俺たちも子ども相手だから考えなくちゃいけないんだ。経理だと金握ってるんだろ?」
「そうね……」
 火事場泥棒ということもある。災害の時に金を守るのは経理課の仕事のひとつだ。そのために緊急時のマニュアルが作成されている。アクションカードもあるはずだ。災害が起こったらとりあえずこの行動を取れ、ということを示したカード。
「結構真面目に考えてるのよ。金庫の保管とか現金の取り扱いとかね」
「意外だな」
「どうして?」
「前にお前、言ってただろ?」
「何を?」
「職場が火事になったらその辺の現金ひっつかんで一人で逃げる、って」
「……言ってないわよ、失礼ね」
 それは津波が来たときの話だ。火事が起こったら、私は職場の通帳と銀行印を持って海外へ逃げる。周囲一帯を襲う津波のときは現金がまず力を持つだろうし、私の職場だけが被害を被る火事のときは通帳と銀行印とが、私にプーケット辺りでの優雅な生活を約束してくれる。
「変な所で頭が働くんだな、お前は」
 風宮の言葉に、いとより鯛の塩焼きを卓に並べてくれた仲居が、「お二人さん、仲がよろしいんですね」と言った。風宮が返した。
「腐れ縁ですね」
「はやく腐ってなくなってくれるといいんですけどね」
 私も続けた。小さく笑った彼女は「ごゆっくりどうぞ」と言い残して去って行った。レモンと塩だけが添えられた、素材に自信があるいとより鯛だった。

 日本酒と焼酎を1本ずつ空けた。今夜は風宮が出してくれた。また付き合ってくれという。私は快諾した。
 午後10時の肥後大津駅前で、私たちは別れた。
「あぁ、そうだ」
 別れ際、駅の改札を超えた風宮が振り返った。
「墓参り、しとくよ」
 言った風宮に、私は「ありがと」と答えておいた。

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