FC2ブログ
--.--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2018.01.22

On a snowy day

 雪が降り始めたのは午後1時だった。
 同じ時刻から始まった打ち合わせは、午後2時30分に終了した。

 打ち合わせを終えてデスクへ戻ると、どういうわけか、私の課の人数が目に見えて減っていた。隣のデスクの社員に尋ねる。
「何かあったの。人が少ないみたいだけど」
 彼女は窓際を指さしながら答えた。
「みんな、雪が気になるみたいです」
 窓際には、雪を眺めながら雑談をする社員の姿があった。どうやら雪はそれなりに積もっているらしい。何人か、既に退社した社員もいるようだ。その筆頭は課長で、午後1時を過ぎた段階で会社を飛び出したらしい。尊敬すべきところだ。
 
 東京では雪が降ると電車が止まる。止まった電車は一晩は動かない。だからこういう時には、各自の判断で退社して構わない。それが私の会社の方針だった。
 私の家も、職場からは割と遠い。電車の運行状況を見てみると、運休も出始めているようだった。考える間もなく、退社することに決めた。
 書類を適当に片づけて、アルコールティッシュでデスクを拭き上げた。コートを着て、「おつかれさま」と言いながら職場を出た。

 そうして定時よりもずっと早く家に帰り、窓の外に雪を眺めながらワインを飲んでいる。
 今日私が知ったことは、雪は電車も仕事も止めてしまうということと、コノスルのロゼワインは悪くない、ということだった。
スポンサーサイト
2018.01.20

What changes and not

 変わりのない日々を送っている。毎日に大きな変化などない。変化のない日々を私たちは、「毎日」と呼んでいる。
 私はいま東京にいる。熊本から、期限付きの出向。この東京で住んでいるところは、大学時代を過ごした土地だ。あまり良い思い出はない。

 この一年の間に変わったことといえば、私の幼馴染が死んだことだ。幼馴染を亡くすのは、これで2回目。それが多いのか少ないのかは分からない。けれど、これ以上はないことは分かっている。もう私に幼馴染は残っていないから。

 なぜこうしてまた日記を書いているのか、私は自分でもよく分かっていない。ここに綴っていた日々を取り戻したいのかもしれないし、単に暇なだけかもしれない。
 
 今日は朝から隣町へ行った。西国分寺駅の改札を出て、目的もなく街を歩いた。訪れたのは、いくつかの神社と、湧水群と公園。どれも、大学時代に時々訪れた場所だった。
 公園では、自動販売機で缶コーヒーを買った。かじかむ手をコーヒー缶で温めながら、ベンチに腰掛けて園内を眺めた。相変わらず広い公園だった。犬を遊ばせる人、子連れの家族。かつてと変わらない景色がそこにはあった。

 いや違う。公園の傍らには図書館が出来ている。公園隣の店だって変わっているし、建て替えられたマンションだってある。変わらないのは景色ではなくて私の方だ。変わらないのは酒量だけらしい。

2017.04.06

「やけにカラフルじゃない?」

 唐突に、背後から声を掛けられた。振り向くと、同期が面白そうな顔で私のパソコンを覗き込んでいた。
「これ、誰かから依頼されたの?」
 問われて、幹部からね、と答える。

 パソコンに映し出されているのは、作成中のパワーポイント資料だった。いくつかのデータをグラフ化したもの。折れ線やグラフのラベルは、たしかに色とりどりだった。なにしろ、折れ線は赤色と青色、棒グラフは真っ黄色に塗り潰され、あげく横軸は紫色という始末。スピリタス・ウォッカを1瓶飲んで絵の具をばら撒いたような有様だった。

「ゆずきは、もっと無味乾燥なグラフを作るんだと思ってた」
 乾ききった紙粘土を眺めるような口調で、彼女は言った。
「そんなつもりはないけど」
「だってこないだのプレゼンのときはそんなグラフだったじゃない」
 言われて、先日私がしたプレゼンを思い出す。たしかに、そのプレゼン資料に存在していたのは白と黒と灰色のみだった。
「あれは営業用だから」
 こっちは資料用、と付け加えた。

 営業用というか、とにかく短いプレゼンで確実に理解してもらうためには、グラフはシンプルでなくてはならない。したがって多くの色を使う必要はない。私の場合、白と黒と灰色、使ってもあと1色までだ。それで表現出来なければ、そのグラフで何かを伝えることは出来ないと思っている。
 一方、資料としてデータを提供する際にはもう少し複雑になっても構わない。そのためには色の種類を増やすこともやむを得ない。それはたしかに私の好みではないけれど。

「ゆずきはシンプルなのが好きそうだもんね。カクテルもジントニックばっかり飲んでるし」
「それは否定しないわね」
「ジントニックっていうかジンのストレートでも良いんじゃない?」
「それも否定しないわね」
「究極、ボトルから直接ジン飲んでそう」
「……否定しないわ」
「そこはさすがに否定しなさいよ」

 笑った彼女は「頑張って」と付け加えて去っていった。それが、この仕事のことを指していたのか、それともアルコールを控えることを指していたのか、少し考えてみたけれど分からなかった。
2017.04.04

Exhausted

 入社式を終えた新人が配属された。彼らはオフィスへ向けた挨拶をして、それぞれの部署へ向かっていった。その様子を、同期の水瀬さんは、チベット語で教えを説くダライ・ラマを見るような目つきで眺めていた。たぶん、私も同じような目をしていたことだろう。

 新人の挨拶が終わった。
 デスクで電卓を叩きながら、ふと考えた。彼らはどんな気持ちでいるのだろう。不安だろうか。それは期待の裏返しだ。期待だろうか。それはいずれ取って代わられる。期待以外のなにかに。その「なにか」を、私はまだひとつしか知らない。

「疲れてるみたいね」
 ある同期に言われた。否定する気は起きなかった。しかし、彼女の言葉は十分な形容ではなかった。英語にはもう少し適切な形容がある。Exhaust。「使い果たす、疲れる」という意味。

「なに言ってるの」
 笑いながら彼女は、私のデスクに一枚の請求書を置いた。
「支払いよろしく」

 彼女が置いていった請求書は、幹部連中の宴会費用だった。何の役にも立たない、しかし高価な宴会。――この宴会の費用を支払うために、私はここにいる。

 ゼロが6つほど並んだその請求書を眺めながら、私はジン・トニックを作るために搾った、昨夜のライムの欠片を思い出した。すっかり使い切られてしまったライム。いくら搾ってももう果汁は得られない。あのライムもまた、「疲れて」いたのだろうか。私と同じように?

 一日中電卓を叩いて過ごした。昼には缶のブラックコーヒーを1本飲み、パーラメントを3本吸って、すぐに仕事へ戻った。将来の支払いのための引当金を9億積んだ。相変わらず残業をしている経理課の課員を一瞥して、定時に職場を出た。

 こんな引当金の他に、もっと積むべき引当金はあるはずだった。今こうしている瞬間にも、未来で清算されるべき負債は私の中に蓄積され続けている。それらへの引当金は今のところ積まれてはいない。たったの1円も。

 少しだけ春めいた暖かさの中。車を走らせながらもう一度、昨夜のライムを思い出した。搾りきったライム。これ以上搾っても、みずみずしい果汁は得られない。代わりに抽出されるのは果皮の苦味ばかり。後は、ゴミ箱へ投げ捨てられるだけ。

 あらゆるものは移りゆく。その時々に応じた場所を得ながら。
 そしてやがて、存在すること自体にも終わりが来る。Exhaust。存在さえ使い果たされる。真新しいスーツを着た新人がすぐに街から姿を消すように。

 この場所から私が去るまであと少し。そのことはまだ、誰も知らない。
2017.04.03

Wave

 刺すような風が吹いている。その冷たさは、まるで真冬の夜のそれ。コートの襟もとを閉じながら、タイムレコーダーに職員証をかざして職場を出た。
 経理にとってはこの時期が最も忙しいらしい。実際、他の経理課員は全員、まだ残っている。ご苦労なことだと思う。

 家へ帰る途中で、いつもの店でいつものようにワインを買った。家へ帰れば、またいつものように適当なシチューでもつまみながら、このワインを飲み干してしまうことだろう。いつまでも同じ行動の繰り返し。そこに変化や深化はない。ちょうど砂浜を洗う波のように、その営みはそれ自体に意味があるのだから。

 決算のことを考えた。毎年毎年同じだけのことをこなすのに、同じだけの――あるいは、今まで以上の――時間をかけて、同じような決算書を作る。ワインをグラスに注ぐ行為を波に喩えるなら、決算を打つことはその波の数を数えることに似ている。多少間違っていたって誰も困るわけでもないし、間違いに気付くこともない。ついでに言うなら、そうやって数えられた数に大した意味などありはしない。どうせワインでも飲みながら数えるに決まっているのだから。

 溜息代わりにアクセルを踏み込んだ。スピードメーターが大きく廻って100キロ近くを指した。と、後部座席でワインのボトルが落ちる音。急いでアクセルを緩める。私を動かしているのはいつだってアルコールなのだ。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。